なぜ日本のマンションは鉄筋コンクリートで造られているのか?

2016.07.18
なぜ日本のマンションは鉄筋コンクリートで造られているのか?
今これを読まれているほとんどの方はマンションが「鉄筋コンクリート」で造られている事をご存じだと思います。細かく言えばマンションの構造には「鉄筋コンクリート(RC)」と「鉄筋鉄骨コンクリート(SRC)」の2つがあるのですが、いずれにせよ「鉄」と「コンクリート」の組み合わせで造られているという点では同じです。さて、マンションが「鉄筋コンクリート」で出来ているのはほとんど常識と言ってもいいくらい誰でも知っている事ですが、ではなぜマンションは「鉄筋コンクリート」で造られているのでしょうか?そう聞かれたときに答えられる方となるとぐっと少なくなるのではないでしょうか?

監修者:針山昌幸

針山昌幸 プロフィール写真

株式会社Housmart 代表取締役
宅地建物取引士・損害保険募集人資格
『中古マンション 本当にかしこい買い方・選び方』
(Amazonランキング・ベストセラー1位)

e400bbffc09817a89f95f51302473527_s例えば欧州の街並みをなどでよく見かける古く上品な石造りの建物の数々。あのような石造りのマンションはなぜ日本にはないのでしょうか?また、最近はマンションの寿命について話題になる事も多く、また実際に中古マンションの購入を考えている方であれば、そのマンションがあと何年住めるのか?という事はかなり気になるポイントだとと思います。さて、マンションの寿命と聞いて多くの方が真っ先に想像するのはマンション本体の物理的寿命の事ではないでしょうか?実際のマンションの寿命は物理的な寿命より先に経済性などほかの要素によりところが大きいのですが、一般の方がマンションの寿命と聞いて一番に想像するのは物理的寿命、つまりマンションを構成する「鉄筋コンクリート」の寿命だと思います。40d7d003bbfbbc362ef38ae481bb4088_sしかし、そもそも鉄筋コンクリ—トに寿命などあるのでしょうか?また、仮に寿命があるとして「どうなったら」寿命になるのでしょうか?こう考えてみると多くの方はマンションが鉄筋コンクリートで出来ている事は知っていても、鉄筋コンクリート自体についてほとんど知らないという事に気がつくと思います。今回は、マンションを作る基本的な要素でありながらほとんどの方がその詳細を知らない鉄筋コンクリートについて考えてみます。

日本に石造りのマンションが存在しない理由

d68b37d14b355bcbf405a6f0e00bcf1c_s欧州の街並みを見ると古く瀟洒な石造りのマンションが数多く存在しています。実際に数百年以上前から存在する建物も多く、石造りの建物の寿命の長さがうかがえます。その石造りのマンションの寿命の秘密はメンテナンス製の高さにあります。石造りのマンションの場合、壊れた箇所はそれと同じ形の石に交換するだけで済むのでメンテナンス製が極めて高く、長期間安定して居住する事ができるのです。一方で日本のマンションを見ると、ほぼすべてのマンションが鉄筋コンクリートで造られています。557466ff6e16dad4334c1a244359e28c_sもし建物のどこかが壊れた場合、表面のコンクリート程度ならともかく内部の鉄筋から補修するような修理は極めて困難で、その保守性においてどうしても石造りに劣ります。ではなぜ日本には石造りのマンションが存在しないのでしょうか?その理由は簡単で、日本が地震大国だからです。石造りのマンションは、基本的には「ブロック状の石を組み合わせて積み上げただけ」という構造をしています。これは煉瓦造りの建物であっても同様なのですが、欧州のように地震がない地域では建物がそういう構造でも全く問題がないのです。しかし日本のような地震の多い国では残念ながら大きな地震が来た時に耐える事ができません。「ブロックをただ単に積んだだけ」の建物は地震に対し非常に弱いのです。地震のときを考えると「木」や「鉄」のようなある程度の柔らかさと強度を併せ持つ素材で建物を作る必要があるのです。そのため、日本では建築物は基本的に「木造」もしくは「鉄筋コンクリート」で建てられているのです。細かく言えば、日本の建物の構造は「木造」「軽量鉄骨造」「重量鉄骨造」「鉄筋コンクリート」「鉄筋鉄骨コンクリート」の5種類があるのですが、ある程度以上の規模の建物であれば強度的に「鉄筋コンクリート」もしくは「鉄筋鉄骨コンクリート」構造になっています。もちろん日本にも明治時代以降に建てられた煉瓦造りや石造りの建造物は存在していますが、現存している建物に関しては適宜耐震補強工事が行われており、昔のままの構造ではない建物がほとんどです。

鉄とコンクリートをなぜ組み合わせるのか?

鉄筋私達は普段ごく当たり前のように「鉄筋コンクリート」という言葉を見聞きしていてそこに何の疑問も持っていません。しかし、よく考えてみてください。そもそもなぜ建物を建てるときに「鉄」と「コンクリート」を組み合わせるのでしょうか?それはその2つの素材が、お互いの短所を長所でおぎないあう絶妙の相性を持っていて建物を建てるときに最適の素材だからという理由があります。鉄は比較的安く丈夫で丈夫な建物を建てるにはかなり理想的な素材なのですが、欠点が2つあります。一つは錆びやすい事です。普通の鉄をちょっと外に放置しただけで赤錆だらけになってしまうのは多くの方がご存じの事でしょう。理科の時間にならったと思いますが、サビというのは「酸化」する事です。そして日本の雨は酸性雨が多いため、特に鉄が錆びやすい環境にあり、そのまま建築物に使う事ができません。ではどうするか?ですが、鉄を酸化させないためにはアルカリ性の物質で覆う事が一番簡単です。そしてコンクリートは典型的なアルカリ性の物質です。あまり知られていないのですが、素のコンクリートはそのまま触ると人間の皮膚がボロボロになってしまうくらい強いアルカリ性を持っているのです。。強アルカリ性の物質で鉄筋を覆う事で中和される形になり鉄は錆びなくなります。結果として鉄はいつまでも錆びずに本来の強度を維持する事ができるのです。鉄のもう一つの欠点、それは圧力に弱く曲がりやすい事です。鉄筋とは言ってみれば針金を太くしたようなものですから、圧力をかけると曲がってしまうのです。外圧で曲がってしまっていては建物に使う事はできません。一方でコンクリートは圧力に強いという特性があるため、コンクリートで鉄筋を覆う事により曲がるのを防ぐ事が出来るのです。逆にコンクリートは引っ張りに弱いという弱点があります。そのためコンクリートにはひび割れができやすいのですが、逆に引っ張りに強い鉄と組み合わせる事でこの欠点を補う事ができるのです。さらに鉄とコンクリートは熱膨張率がほぼ等しく、寒暖の変化に合わせて同じように収縮するため寒暖の変化にも全く問題がない、というのも大きなポイントです。こうして考えると鉄筋とコンクリートは奇跡のように相性のいい組み合わせであり、日本でマンションを建てる場合「まさにこれしかない」と言える素材なのがご理解いただけるかと思います。

鉄筋コンクリートの寿命とは?

MA340085多少マンションなどに詳しい方であればコンクリートの寿命という言葉を聞いた事があるかと思いますが、そもそもコンクリートの寿命というのはなんでしょうか?そう突っ込んで聞かれると「よくわからない」という方がほとんどではないでしょうか?おそらく漠然と「経年劣化で強度が落ちていずれ砂のように崩れる」ような状況を想像する方が多いと思います。しかし鉄筋コンクリートの寿命とはそう単純な話ではありません。先に、なぜ鉄筋とコンクリートを組み合わせるかという話をしました。鉄が錆びない、つまり酸化しないようにアルカリ性のコンクリートで覆う事で、双方の弱点を補っているわけですが、という事はもしコンクリートがアルカリ性でなくなった場合、あるいは、コンクリートにヒビが入り中の鉄筋に直接水が触れるようなった場合、鉄筋の錆びを防ぐ効果がなくなってしまうためいずれ鉄筋は錆びてしまうだろう事が想像できると思います。そして錆びた鉄は大きく膨張するため、その表面のコンクリートを押し上げて破壊してしまいます。すると大きな隙間が出来、鉄筋が水に接する部分が増え錆の面積が増大し…これが「鉄筋コンクリート」の寿命が来た姿です。つまり「中の鉄筋が錆びてしまい鉄筋コンクリートとしての構造を保てなくなったとき」が鉄筋コンクリートの寿命なのです。逆に言えば「コンクリートにヒビが入らず」「コンクリートがアルカリ性を維持している」限り、中の鉄は錆びません。つまり鉄筋コンクリートは安全な状態にあると言えます。街でマンションを見ると多くのマンションの表面には「タイル」などが張られているのを見かけると思います。これはデザインのためだ、と思われている方も多いでしょうしもちろんデザインもあるのですが、マンションにタイルが貼られている理由はデザインだけが理由ではありません。マンションにタイルを貼る目的は「マンションの基礎となるコンクリートが直接外気や雨に当たらないようにする」事が目的で貼られているのです。つまりマンションの表面にタイルを貼って覆い隠す事で、雨風からマンション本体を守っているのです。酸性雨という言葉がありますが、日本の雨は基本的に酸性であるため直接雨風に当たるとコンクリートは徐々にアルカリ性ではなくなり中性化していってしまうのです。鉄筋コンクリートの寿命を考えるとそれではまずいため、多くのマンションではコンクリートの表面をタイルなどで覆ってコンクリートを守っているのです。鉄筋1バブル期に「コンクリート打ちぱっぱなし」のビルが流行した事がありますが、最近はそのような建物を見かけるはほとんどありません。コンクリート打ちっぱなしの建物はコンクリートが外部に露出した状態になるため建物の物理的寿命が短くなることが大きな理由です。寿命を縮めないためにはマメにメンテナンスを行う必要があり、その維持コストが大変になるためです。

鉄筋コンクリートの寿命はメンテナンスで決まる

鉄筋5マンションの寿命を語るときに「コンクリートの寿命」について語られる事は多く、少し昔は50年60年などとも言われていましたが、現実にきちんとメンテナンスされている建築物を調べる限り、鉄筋コンクリートの寿命はそんなものではありません。もし本当に鉄筋コンクリートの寿命が50年60年程度であれば、随所にある古い鉄筋コンクリートの建物は現在次々と倒壊の危機を迎えている事になりますが、実際にそんな話はありませんよね?都内であれば街中には築50年や60年程度のビルはゴロゴロ見かけますが、それらの建物の「鉄筋コンクリート」に問題があるという話は聞いた事がないと思います。実際に聞くのは「古い建物は耐震性に問題がある」という話でしょうか。つまり「鉄筋コンクリート」自体には全く問題なくても「耐震性」に問題がありその補修ができないビルの場合、鉄筋コンクリート以外の理由で寿命を迎える事があるわけです。あるいは建物全体の設備が老朽化して住む人がいなくなったとか、今の水準では部屋が狭くて住む人が減ったとか、ここにはもっと新しい建物を建てたいから建て替える、とか、ほとんどの建物は、「鉄筋コンクリートの寿命」とは別の問題で寿命を迎える事になります。つまりマンションの寿命を考えるときに「鉄筋コンクリートの寿命」については気にしなくてもいいのです。しかし、それはあくまでも「きちんとメンテナンスされているマンション」の場合です。先に書いたように、実際のマンションではコンクリートが劣化しないように表面をタイルでおおっているわけですが、このタイルにヒビでも入ろうものならその効果は大きく落ちる事になります。ヒビから雨が侵入してくるためその部分に関してはタイルの保護効果を得られなくなるのですが、そうならないようにするには、こまめに外壁のメンテナンスを行い随時問題的を補修する必要があります。マンションの外壁にタイルが使われている理由は、このメンテナンスの容易さにあります。タイルであれば、壊れた部分だけを同じようなタイルに交換するだけで簡単に補修ができるからです。そして、きちんとメンテナンスを行う事でマンションの寿命は大きく延びる事になります。逆に言えば、メンテナンスをきちんと行っていないマンションの場合、ほんの10年20年で随所に劣化が発生する可能性があります。そしてその劣化は一旦はじまると巻き戻す事ができません。一度鉄筋に発生してしまったサビはもうもとにもどす事はできないのです。そうなってしまったマンションは「物理的寿命」が大きく縮む事になります。「マンションは管理を買え」とよく言われますが、ここまでの話でその理由もお判りかと思います。管理が行き届いていないマンションはマンション自体の物理的寿命が大きく縮む可能性があるからです。幸いにして中古マンションの場合、マンションの管理状況について現地で直接確認する事が可能です。中古マンション選びの際には、ぜひ現地でマンションの管理状況を観察してみてください。適切に管理されているマンションであれば、少なくとも物理的寿命についてはほとんど気にする必要がないと言えます。
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マンションジャーナル編集部

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