【中古マンション購入の必須知識】「登記」は何のためにやるのか?

2017.08.10
【中古マンション購入の必須知識】「登記」は何のためにやるのか?
中古マンションを購入する時には、売買代金以外にもさまざまな費用がかかります。こうした諸費用の中には、必ず登記費用も含まれています。そもそも登記とは何なのか。今回はマイホーム購入時に発生する不動産登記を、法律・実務の両方の視点から見てみましょう。

監修者:針山昌幸

針山昌幸 プロフィール写真

株式会社Housmart 代表取締役
宅地建物取引士・損害保険募集人資格
『中古マンション 本当にかしこい買い方・選び方』
(Amazonランキング・ベストセラー1位)

不動産登記とは

例えばマンションを購入するとき、買主が売主に売買代金を支払うことにより、マンションが売主のものから買主のものになります。「これは自分のものである」という権利のことを、法律用語では所有権と言います。また、マンションを購入する時には多くの人が金融機関で住宅ローンを組みます。金融機関もただでお金は貸してくれません。通常は購入するマンションを担保にします。担保権の中でも最も一般的なものが法律用語では抵当権となります。いわゆる買主が取得する「所有権」、お金を貸し付ける金融機関が取得する「抵当権」。どちらの権利も目で見えるものではありません。こうした不動産に関連する目では見えない権利を、国の機関である法務局が管理する「登記簿」に記録し、自己の権利を保全すること。それが不動産登記の制度なのです。

登記の必要性

所有権や抵当権は、登記簿の中の「権利部」というところに記録されます。「権利部」の登記は当事者の任意(申請主義)であり、必ず登記をしなければならないわけではありません。ではなぜ、登記をする必要があるのか法律面から見てみましょう。

登記の対抗力・推定力・順位

登記には対抗力があります。対抗力とは不動産の権利の得喪及び変更を第三者に主張しえる法的効力のことです(民法177条)。また推定力とは登記が記録されていれば、その記録どおりの権利が存在するという推定を生じさせる効果のことです。そして同一の不動産に関する数個の権利が登記されているときに、権利の優先劣後の関係を決するのが登記の順位となります。一般的に、先に登記があればその登記が優先となり、後に登記を申請しても先順位の登記に対抗することが出来ません。例えば、所有者としてAさんが記録されており抵当権者として先にB銀行(3,000万円)、後にC銀行(1,000万円)が記録されているとしましょう。この場合、Dさんが「このマンションは自分のものだ」と主張しても、登記にはAさんが記録されているので、Aさんは「このマンションは自分のものだ」と第三者に主張することができ、登記があればその記録どおりの権利がAさんにあると推定されます。もしAさんとDさんが所有権を争い裁判になったとしても、きちんと登記がなされていればAさんが断然有利になりますね。また先に抵当権者としてB銀行が記録されていれば、C銀行の抵当権はB銀行の抵当権を無視することができず、常にB銀行が優先されます。Aさんが何らかの事情で住宅ローンを返済できなかったときは、不動産が売却され、その売却代金の中から抵当権者が弁済を受けます。マンションが3,200万円で売却されたときは、B銀行は3,000万円全額の弁済を受け、C銀行は200万円しか回収できなくなるのです。もしB銀行が先にお金を貸し出したとしても、後にお金を貸したC銀行に登記があれば、不動産を売却した代金から優先的に弁済されるのはC銀行となります。

登記をしないことの危険性

それでは決済日(売買代金の全額を支払い所有権が買主に移る日)に登記をしないことの危険性を、事例に基づき考えましょう。

事例

太郎さんがマンションを購入します。現在の所有者は次郎さんです。登記簿には次郎さんの名前が記録されています。太郎さんと次郎さんで売買の契約をし、太郎さんはマンション購入資金として渋谷銀行から2,000万円の住宅ローンを借りることとなりました。太郎さんは決済日に、渋谷銀行からの融資をもとに次郎さんに売買代金の全額を支払い、所有権は次郎さんから太郎さんに移りました。しかし太郎さんは、そこですぐに登記をせず、後日ゆっくりやろうと考えました。するとどんな危険があるでしょうか。

危険①二重売買の危険

前述したように、所有権は目に見える権利ではありません。売主・次郎さんが太郎さんにマンションを売却した後、登記簿にまだ自分の名前があることをいいことに、何も知らない三郎さんに同じマンションを売却し、三郎さんを所有者とする登記が記録されてしまいました。後日、太郎さんが登記をしようとしても、三郎さんが所有者として記録されているので、登記はできません。太郎さんが「所有者は自分だ」と主張して三郎さんと争っても負けてしまうことは、前述した通りです。太郎さんがマンションの所有権を取得することはできないでしょう。太郎さんにできることは、次郎さんに「売買代金を返せ」ということくらいで、裁判になれば時間もお金もかかるでしょう。

危険②不動産に先順位担保権の記録

同様に、所有権は太郎さんに移りましたが、登記はまだ次郎さんの名義で記録されているとします。実は次郎さんは税金を滞納しており、税務署が滞納している税金の回収として、次郎さん名義のマンションを差押えました。もう所有権は太郎さんに移っているのに、先に登記をした差押えの登記が優先され、強制執行でマンションが売却されてしまいます。同じように、次郎さんに名義が残っているので、次郎さんがマンションを担保に借金をし、抵当権が設定されました。その後に太郎さんが所有者として登記をしても、先に登記された差押えや抵当権に劣後し、大きな負担付きの所有権を取得することになってしまいます。太郎さんが資金を調達した渋谷銀行にとっても、自分の抵当権が劣後する権利となってしまいます。

まとめ

上記のことから、決済日に必ず登記をすることの大切さがわかっていただけたことと思います。実務では、買主が売買代金を支払う前に登記申請代理人である司法書士が最新の登記簿を確認して、余計な権利がないか確認をします。そして登記申請のために必要な書類が揃っているか確認ができれば、売買代金の支払い、融資の実行の指示を出します。そして金銭の授受の確認後に速やかに登記を申請します。司法書士は大きな取引である決済の場ではかなり緊張しています。ミスがあれば関係者全員に大きな損失が生まれるため、絶対にミスはできないのです。大切な財産を守る決済では、不動産登記に精通した司法書士に依頼をお願いしたいですね。
株式会社Housmart
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マンションジャーナル編集部

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