【不動産ビジネスの専門家に聞く!】不動産業界の課題と不動産テックへの期待

2017.08.27
【不動産ビジネスの専門家に聞く!】不動産業界の課題と不動産テックへの期待
不動産ビジネス専門家協会の代表理事を務めておられる、中沢誠様に現在の不動産業界の課題と、不動産テック企業に求められる役割について、マンションジャーナル編集部でインタビューをさせて頂きました。不動産業界が変化することで、個人レベルの不動産取引にどのようなインパクトがあるのでしょうか?

 不動産業界の課題とは

カウルスタッフ:「現在の不動産業界の課題とは何でしょうか?」中沢様:「まず1つには、両手取引が認められているので、『不動産仲介業者は買主と売主のどちらを重視しているのかがわからない』という不信感を買主、売主それぞれが抱いてしまうということが挙げられますね。また、手数料制度にも課題があると思います。 不動産業者は、物件価格の3%を仲介手数料として受け取ります。そしてこれは、あくまで「成功報酬」とされています。「物件価格の3%」という報酬設定ですと、低価格物件を仲介しても不動産業者が受け取る報酬が少なくなってしまいます。商売として成り立たないと、不動産業者は取引をしたがらないのは当然です。極端な話、現在の手数料設定では地方などの低価格物件を扱うインセンティブは不動産業者にありません。これでは、中古住宅の流通は促進されていきません。しばしば、不動産業者による囲い込みが問題として語られます。しかし、単純に「不動産業者のモラルが低い」と批判することは正しいのでしょうか?「何が原因で囲い込みが起こるのか?」ということについてしっかりと考えないと問題解決になりません。もちろん、囲い込みはお客様の利益を害する可能性がありますから、規制は必要です。しかし、現在の「成功報酬」という制度のもとでは、不動産業者が囲い込みをしてでも取引を成立させないと利益を出すのが難しくなっているのが現状です。不動産業者の本源的な価値をお客様と物件のマッチングにとどまらず、「家探しのコンサルテーション」として捉え、物件価値の解説や、売買のサポートを手厚く行っていくことが重要なのではないでしょうか。コンサルテーションに価値を見出せば、「物件価格の3%」以上の価値があると思います。例えば、「コンサルテーションをお客様に対して行った時点で報酬が発生する」というビジネスモデルにしていくことが考えられます。

不動産テックに期待すること

カウルスタッフ:「その課題を受けて不動産テックに何を期待しますか?」中沢様:「前提として、不動産テックのサービスは、大まかに3種類に分けられます。
  1. マッチングサービス
  2. ビッグデータ活用
  3. 業務効率化サービス
現状の不動産業界はIT化が非常に遅れており、業務が非効率的に行われています。そのため、各不動産会社は高コスト体質となっており、「3%」という上限金額目一杯の仲介手数料をもらわないと経営が立ち行かないのです。それに対して、上記に挙げたような不動産テックサービスを提供する企業は、IT化によってオペレーションコストを削減しています。当然、このようなテクノロジーを活用したサービスが、これからの不動産業界で主流になっていくでしょう。 よりわかりやすく、よりリーズナブルなサービスが広まるのは当然です。しかし、そもそもこのような不動産テックのサービスが日本に根付くための土壌としてまずやるべきことは、業務の「ペーパレス化・電子化」です。不動産業界は未だに「紙」が多すぎます。これは業務が非効率となっている大きな原因です。そして、「ペーパレス化・電子化」の中でも特に電子契約を推進していくことが求められるでしょう。実際には金融商品など、不動産よりもはるかに高価な商品も電子決済されているので、不動産においても電子決済ができないことはありませんよね。高額の取引を電子で行うことに対して怖いという感覚もありますが、実際に偽造のしやすさで言えば、紙よりもはるかに難しいでしょう。最近の積水ハウスが地面師に詐欺被害を受けた事件がありましたが、電子取引が普及することによってこのような事件が起きにくくなるかもしれません。電子契約が生み出すメリットを整理すると、以下のようになります。
  1. スピード化
  2. コスト削減
  3. コンプライアンス強化
中でも不動産取引において大きな費用となる印紙税や、人件費を削減できることは大きなコストカットとなります。このように、不動産会社側の業務のコストを「電子化・ペーパレス化」によって削減することで、お客様により還元することができます。そして、いよいよ今年の秋からまずは不動産賃貸業において、重要事項説明のIT化が始まりますこれまでは、不動産会社に来店し、対面で説明を受けなければいけませんでしたが、「IT重説」が実施されることで、来店せずに自宅などで説明を受けることができるようになります。

ITを活用した重要事項説明等に関する取組み(国交省)

このような流れに応じて宅建業法が整備されていくことで不動産業界はより良いサービスをお客様に提供することができるようになるでしょう。」カウルスタッフ:「本日はありがとうございました!」 取材協力:中沢誠様1969年(昭和44年)埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれ。1992年(平成4年)三井不動産販売(現三井不動産リアルティ)入社。売買仲介業を経験後、リハウス契約審査グループで契約書・重要事項説明書の審査業務に携わる。あわせて、新システム開発のプロジェクトメンバーの一員として、情報システムによる業務改善を推進した。1999年(平成11年)米国の投資ファンドであるローンスターグループのアセットマネジメント会社入社。自己競落物件及びバルク購入物件の売却(ディスポジション)業務に従事。2003年(平成15年)株式会社地産の事業家更生管財人代理に就任し、霊園事業及び保有不動産売却を担当。その後不動産バルクセール(購入・売却)のクロージング主担当者を経て、購入クロージング・デューデリジェンス担当部門の統括責任者に就任。2010年(平成22年)不動産法務サポートオフィス行政書士事務所創業。物件調査や契約書・法定書面の作成、コンプライアンス体制構築のコンサルティング等、不動産に特化した法務関連サービスを提供している。2014年(平成26年)一般社団法人不動産ビジネス専門家協会代表理事に就任。セミナーや交流会等の活動を通じて、不動産実務家と士業等の各種専門家のコラボレーションを推進している。2016年(平成28年)ロックハラードコミットライン株式会社代表取締役に就任。様々な企業との協業による不動産テック事業の展開を進めている。一般社団法人不動産ビジネス専門家協会ホームページ外部サイト)ロックハラードコミットライン株式会社(外部サイト)
株式会社Housmart
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マンションジャーナル編集部

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