マンション購入で、今本当にすべき防災対策とは?災害不安のないマンション、リスク見極めのプロに聞く | 長嶋修氏・さくら事務所【前編】

2023.10.12
マンション購入で、今本当にすべき防災対策とは?災害不安のないマンション、リスク見極めのプロに聞く | 長嶋修氏・さくら事務所【前編】

家探しの時に、地震や台風など災害時に懸念がある物件は、やはり避けたいもの。

自治体のハザードマップを見てみたり、不動産屋に聞いてみたりはしたものの、「これはセーフなの?アウトなの?」「ハザードマップにかかってなければOKなの?」・・などなど、最終判断に迷ってしまう人も少なくないはずです。

NPO法人日本ホームインスペクターズ協会(JSHI)を設立され、「インスペクション(住宅診断)」の重要性をいち早く訴求、『災害に強い住宅選び』(日本経済新聞出版社)を執筆するなど、「住宅購入におけるリスクとの向き合い方」について訴え続けてきた長嶋修さんに、今後の住宅購入・保有に関わる防災リスクの考え方について解説いただきました。

防災関連情報の収集方法から、今後の金融状況に応じた住宅保有をどう考えるべきかまで・・インタビューでのトピックスは多岐に渡ることに。前編・後編にてお届けします。

長嶋 修

長嶋 修 プロフィール写真

株式会社さくら事務所代表取締役会長/不動産コンサルタント
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「株式会社さくら事務所」を設立。「中立な不動産コンサルタント」としてマイホーム購入・不動産投資など不動産購入ノウハウや、業界・政策への提言を行う。著書・メディア出演多数。新著に『悩める売主を救う 不動産エージェントという選択』(幻冬舎)。
https://www.sakurajimusyo.com

住宅が抱える災害リスクに関する関心は、年々強まっている

編集部:
「今回、マンション購入に対する防災意識調査アンケートを行いました。その結果、2人に1人が「防災観点で懸念がある物件の購入を見送ったことがある」と回答するなど、現在住宅購入において、ハザードマップや地盤状況、災害時における建物の安全性などを重要視する方が増えてきているようです。

>>参考:「防災面で不安ありのマンションは資産価値が低下する!? 2人に1人が「購入をやめた」経験あり」

長嶋さんはご著書『災害に強い住宅選び』の中で、まだまだ防災観点への意識を高く持つ方は少なく、もっと意識的になるべきだと警鐘を鳴らされていました。今回のアンケート結果をどのようにお考えになりますか?」



災害に強い住宅選び』(日本経済新聞出版社)


“ プロローグで紹介した被災地の多くの住民が、「ハザードマップを見たことがない」と回答していました。筆者が 19年 11月にツイッター上で行ったアンケート(23,700人参加)では、不動産取引の際にハザードマップの説明を「受けた」と回答した人は 10.8%、「受けていない」は 43%、「よくわからない。忘れた」は 46.1%パーセントでした。”
—『災害に強い住宅選び (日経プレミアシリーズ)』長嶋修, さくら事務所著


長嶋氏:
「その本を出した前年、2019年は台風15号と台風19号によって大きな被害が出た年でした。そうしたタイミングでしたが、今回のアンケートのように全体の半分の人が防災的懸念を理由に買うのをやめるなんて状況では到底ありませんでした。なので、2〜3年でこんなに意識が変わったのか、というのが率直な感想ですね」

編集部:
「執筆当時である2020年と比較して、長嶋さんご自身の肌感覚としても今状況は変わってきたという感覚はございますか? ホームインスペクションや『災害リスクカルテ』(※)などのサービスも展開されており、購入検討者の方からダイレクトに相談も受けていらっしゃると思うのですが・・」

※「災害リスクカルテ」は、長嶋さんが創業者である不動産コンサルティング会社「さくら事務所」が展開するサービス。知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震など)をピンポイントで診断し、専門家による災害リスク予想や具体的な対策方法、電話コンサルティングを受けることができる。
https://www.sakurajimusyo.com/expert/tochi-jiban-report.php


長嶋氏:
「ありますね。2010年からここ20年ぐらい、不動産業界にハザードマップやインスペクションなど、災害リスクに対する意識を高めるためにいろんな火をつけようとずっと心がけて取り組んできました。飛躍的に伸びた、というよりは、この20年くらい、毎年前年比110%から120%ぐらいの伸び方で問い合わせが増え続けていますね。私としては、もっとドラスティックに変わるべきであるとも思っているのですが・・」

購入検討に必要な災害リスク情報の集め方は?

編集部:
「購入者の災害リスクに対する意識が変わってきており、皆さんがあらかじめ購入前に調べておこうと考えるようになった一方で、情報が足りているかという問題や、判断の難しさという問題があるかと思います。

まず情報の集め方としては、どのように収集するのが良いでしょうか?」

長嶋氏:
「まずは、『重ねるハザードマップ』で希望エリアの水害リスクを確認するのが良いでしょう。ハザードマップは河川氾濫による洪水や地震の津波、土砂災害、火山噴火など様々な災害による被害予測・その範囲を地図上に示したものです。

 >>「重ねるハザードマップ」(国土交通省)

また、地震発生時の揺れやすさや地盤がどうか、といったことは『国土地理院地図』で見ることができます。地図上を色分けして、その土地が地震に強いのか否かが簡単にわかるようになっています」

国土地理院地図イメージ

左上「地図」→「その他」→「ベクトルタイル提供実験」→「地形分類(自然地形)」もしくは「地形分類(人口地形)」を選択して確認


 >>「国土地理院地図」(国土地理院)

あとは、『Yahoo!天気・災害』はハザードマップが確認できるだけでなく、リアルタイムの自然災害情報も確認できるので便利ですね。まずは手軽に調べたいという場合は、こちらから見ても良いと思います」

 >>「Yahoo!天気・災害

ハザードマップの読み解き方。OK/NGの判断基準は?

編集部:
「防災リスク情報は、まずは水害被害に対するリスク、また地盤、いわば土地の強度のようなものを見ることが必須というところでしょうか。

あとは、情報を得た後に、それをどう読み解き判断するか、ということもポイントになるかと思います。ハザードマップを見た時の判断のボーダーラインというものはありますか?」

長嶋氏:
「大事なのは、水害の可能性があったとして、どの程度のリスクが想定されるのか。また、その想定レベルの災害が起こった場合に、自分が買おうと思っているマンションの階層はどうなのか。あるいは、そのような被害があった時に、自分たちはどのような対応をするのか。

そうしたことまで踏まえて、買うかどうかを決めるということになるかと思います。何がアウトかセーフかというのは、最終的には自分で決めるって話になると思うんです」

編集部:
「例えば、3.0m(1階天井までの浸水レベル)まで浸水可能性がある場所であった場合、では5階であればひとまずは自宅住戸の浸水は大丈夫かな・・という判断になるということでしょうか」

長嶋氏:
「ただ、じゃあ5階だから大丈夫かというと、水害の影響は建物全体に及びますよね。2019年の台風19号の時に、武蔵小杉でいくつかのマンションにおいて起こった被害のように、地下階に浸水して電源設備が被害を受けてしまうことは十分想定されます。

なので、ハザードマップ等による被害想定状況を確認する以外に見ておくべきことがあるとすれば、水害があった場合に対してそのマンションがどれくらい備えているかということだろうと思います。ここはマンションごとにずいぶん差があると思いますので。例えば、水や食料のような防災備品を5階ごとに設置している、というような備えを防災対策としてやっているマンションもあります」

編集部:
「そうしたマンション個別の防災対策というのは、なかなか情報としてオープンになっておらず購入前には見えづらい部分かと思うのですが、どうしたらわかりますか?」

長嶋氏:
「ここはストレートに不動産仲介会社に聞くしかないと思いますね。 『ハザードマップによると、この立地の水害の可能性はこの程度あるということになっています。マンションとしてのその時の対応や対策みたいなことについて教えてください』と聞くのが良いかと思います。それで仲介担当者や売主の方が面倒くさがったりしたら・・それまでですね(苦笑)」

編集部:
「その場合は、かえって買わない方が無難かもしれませんね」

「こんなマンションは買ってはダメ」購入を避けるべきマンションのチェックポイント

編集部:
「防災観点で購入を避けるべきマンションのチェックポイントを挙げるとしたら、どんな項目になるでしょうか?」

長嶋氏:
「まず一つには、『旧耐震かつ耐震診断をしていない』というのがありますね。

旧耐震なのに耐震診断を実施していないというマンションは、言ってしまえば『臭いものには蓋をしろ』と、現実を見たくないとするタイプです。耐震診断をしなければ問題があるのかどうかもわかりませんから。

逆に言うと、耐震診断をした上で必要な補強まで対策していれば問題ない。あるいはもっと現実的なところとしては、旧耐震のままであったとしても、 土地が揺れやすいか揺れにくいかでもぜんぜん違います。旧耐震であっても、揺れにくい土地の上に立っていれば、地震の影響ってさほど受けないんですよね。一概にはいえませんが、例えば、旧耐震で揺れにくい土地に立ってるマンションと、新耐震で揺れやすいところに立ってるマンションでいったら、 前者の方が強い傾向にあると思います」

編集部:
「ということは、例えば『築年数が何十年以上だったらやめた方がいいです』とか、逆に新耐震だったら絶対的に安心ということもないと?」

長嶋氏:
「はい。一般的にメディアなどでは、「旧耐震を避けるべき」などと謳っていたりするんですが、そういう単純な話じゃない。

また、仮に耐震診断を行っていたマンションであったとして、その結果が『問題がない』のであればそれでOKなのですが。もしも補強が必要だとわかった結果、『何も対策をしていない』状況であれば、その理由までを追った方がいいでしょう。資金不足の問題なのか、防災に対する意識が欠如していることが問題なのか。

難しく考えずに選びたい、ということであれば、ひとまずは1981年以降の新耐震基準を満たしているものを選んでおけば良いでしょう。

全体的な傾向として、築年数の浅いマンションほど防災対策の取り組みは行っていることが多いですね。特に2020年以降のマンションは一定程度の防災対策を行っているはずです。2011年の東日本大震災以降のタワーマンションは制振・免震、もしくは普通の耐震構造ではあるがコンクリート強度が高い、といった設計のマンションが多い傾向があります」

「埋立地・湾岸エリアが災害に弱い」は本当なのか?

編集部:
「他に、『こういった条件のマンションは避けた方がいい』という判断基準としては、どういったものがあるでしょうか? 例えばエリアの選び方など・・」

長嶋氏:
「意外と大丈夫だと考えているのが、埋立地・湾岸エリアですね。津波や高波といった自然災害に弱いというイメージを持っている方が多いと思うのですが、実は、水がたまらない、水はけがものすごく良い土地なんです。なので、少なくとも長期浸水するということはないんです。仮に被災があったとしても回復は比較的早いはず。浸水して1週間〜2週間も水が溜まってしまう、というのは、内陸部の話なんですよね」

編集部:
「お話を伺っていると、素人目では正直、なかなか判断に困るなという印象です・・。建物の構造の問題もあり、被災可能性についても災害の種類が複数ありますし・・仮に特定エリアに住みたいとした場合、ハザードマップで浸水想定エリアを確認して真っ赤だったりしたら、諦めるべきなのでしょうか?」

長嶋氏:
「一概にOKかNGかは言い切れないですね。なにしろまず、同じ◯◯1丁目内でも、水害の可能性と揺れやすさはけっこう違ったりします。結局、物件が特定されないとどうにも判断できないところはあるんです」

編集部:
「とすると、災害リスクの高いとされるエリアのマンションを買いたい場合、マンションの選び方次第では、災害リスクを回避する/減らすことは可能と考えて良いのでしょうか?」

長嶋氏:
「もちろんです。例えば江東5区で水害時に2階まで全部浸かってしまうようなエリアであっても、3階以上であればとりあえず自分の部屋は大丈夫だといえる。上下水道が使えるかはわからないですが、水と食料があれば当座は凌げます。あとはハザードマップを見て、災害が起こった際の行動パターンを一通りシミュレーションしておけば良いでしょう。

災害が起こってしまった時に自分としてどう動くか、ということを想定して準備しておく必要性は、どこに住んでいても変わりません。

なので、まずは先ほどお話した通り、国土地理院の地図や『重ねるハザードマップ』などを確認する。それでも不安であれば、手前味噌ですが、『災害リスクカルテ』をやっていただいても良いかと思います。たとえば、立地としてマップを確認するととても際どいところにある。あるいは建物の構造の話や立地、いろんな要素の掛け算で考えるととても自分では判断がつかない・・そのような複合要因を掛け合わせて見て専門家がアドバイスをするサービスなので、ぜひ不安要素の解消方法の一つとして使ってみていただければと思います」

『災害リスクカルテ』レポートsample1

『災害リスクカルテ』レポートsample2

『災害リスクカルテ』レポートのサンプル画像


 >>「災害リスクカルテ」のサービス詳細について

いかがでしたでしょうか。後編では「今後、防災懸念があるマンションと資産価値の関係性について、また、今後くる社会的変化に対して私たちがとるべき対策」などについて、解説いただきます。

>>後編につづく「物件価格への影響は? リスク見極めのプロに聞く「マンション固有の災害リスク」 | 長嶋修氏・さくら事務所【後編】」

株式会社Housmart
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マンションジャーナル編集部

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